あの当て逃げをしたひとへ

すごく好きだった芸能人が、当て逃げをした。

私が彼を好きになったのは、中学生のときだった。
何かにハマるには打ってつけの時期だ。
彼にハマったおかげで、私はお笑いを好きになった。

私が彼を好きになった瞬間のことを今でも覚えている。
今と同じように年末、テレビを見ていたときだった。
日本一を決める大会で優勝したのが彼だった。

そして昨年の暮れ。
また別の、好きだった芸能人が逮捕された。
学校に忍び込んで、制服をたくさん盗んだらしい。
年が変わって、国民的グループの解散騒動があったり、好感度の高いタレントの不倫騒動があったりして、さほど有名でない性犯罪者のことは忘れ去られた。
それでもたまに、彼のことが脳裏をよぎることがあった。

今年ももう終わろうとしている。
昨年の経験があったおかげで、今回の事件にはそこまで落ち込まずに済んだ。
それでも最初にニュースを見たときは、意味を理解するのに時間がかかった。

私は、当て逃げをした彼がTVスターになるためにとことん努力していたことを知っている。
世に出るきっかけとなった大会では「フリートークが下手」と言われ、しばらく準優勝者(ピンクのベストを着た人)が持ち上げられていた。

それでも彼は、地道に自分のキャラを世に広めていった。
女子中高生からの人気が高くなり、彼がテレビに出るのは普通になった。
私は逆に、彼を特別好きでいることはなくなった。
私が特別応援していなくたって、彼はテレビに出続けてくれると勝手に安心していた。

彼のしたことを理解したとき、本当に心底嫌いだと思った。
私の価値観では、絶対に許せない性質を持った人間だと思った。
それでも今思うのは、彼のツッコミがすごく好きだということである。
彼のよく通る声がすごく好きだということである。
もう彼のツッコミを聞くことはできないのだろうか?

そして、彼のツッコミなんか無くても、私は普通に生きていけると思える日が来るのだろうか?